世界遺産でヨーロッパのワイン生産地域を学ぶとき、このラヴォー地区は「圧倒的な景観美と、急斜面を克服した人間の知恵」を象徴する場所として絶対に外せません。
アルプスの山々と青く澄み渡るレマン湖、そして湖に向かって落ち込むような急斜面に見事な石垣のテラス(段々畑)が延々と続く景観は、絵画そのものの美しさです。
基礎データ
- 登録年: 2007年(第31回世界遺産委員会)
- 分類: 文化遺産(文化的景観)
- 登録基準: (iii) 独自の文化的伝統の存在を証明するもの、(iv) 時代の傑出した見本、(v) 独自の伝統的集落や人類の環境利用の見本
- 所在地: スイス連邦(ヴォー州)
ここが凄い3つのポイント
① 中世の修道士たちが築いた「石垣のテラス」 ラヴォーのブドウ栽培の歴史はローマ時代にまで遡りますが、現在見られる壮大な段々畑の基礎を築いたのは、11世紀〜12世紀の中世のベネディクト会やシトー会の修道士たちです。 彼らはレマン湖畔の険しい急斜面を切り拓き、膨大な量の石を積み上げて無数の「石垣(テラス)」を作り出しました。レマン湖東岸からローザンヌ郊外まで約30キロメートルにわたって続くこの段々畑は、人間の手によって過酷な自然環境を最高級の農地に変えた「人類の環境利用の傑出事例(登録基準v)」です。
② ブドウを育てる「3つの太陽」の伝説 ラヴォー地域は北緯46度付近に位置し、ブドウ栽培の北限に近い寒冷な地域です。にもかかわらず、なぜここで芳醇で高品質なワイン(主にシャスラ種)が育つのか? 地元では古くから「ラヴォーには3つの太陽がある」と言われてきました。
- 空から直接降り注ぐ「本物の太陽」
- 鏡のようなレマン湖の湖面から反射する「水面の太陽」
- 昼間の熱を蓄え、夜間にじわじわと保温する石垣の「熱の太陽」
この自然の恵みと、石垣テラスという人間の工夫が完璧に組み合わさることで、極上のブドウが結実します。
③ 職人精神が生んだ「斜面専用のミニモノレール」 ラヴォーのブドウ畑は、最も急なところで傾斜が30度以上もあります。機材や収穫した重量級のブドウを人力で運ぶのはあまりに過酷なため、近代になると畑のあちこちに急斜面専用の小さな「モノレール」やロープウェイが張り巡らされました。 古い石垣を守りつつ、時代の最新技術を取り入れて現在も第一線で最高品質のワインを作り続けている姿勢が、生きている文化的景観として世界中から高く評価されています。
試験・知識のワンポイント:「市場に出回らない」幻のワイン
世界遺産の知識にちょっとした雑学を添えるなら、ラヴォーのワイン(ヴォー州産ワイン)の「希少性」です。 スイスワインはそのほとんどが国内で消費されてしまうため、国外へ輸出される量は生産量全体のわずか1%程度と言われています。つまり、世界遺産ラヴォーのブドウ畑で採れたワインは「現地を訪れるか、特別なルートでしか味わえない幻のワイン」なのです。 ブドウ畑を縫うように走るハイキングコースや、ミニ列車「ラヴォー・エクスプレス」に乗り、レマン湖を眺めながらワインを嗜むスタイルは、エコツーリズムの最高峰としても知られています。
まとめ
ラヴォー地域のブドウ畑は、「修道士たちが急斜面に築いた膨大な石垣テラス」、「3つの太陽が織りなすワイン栽培の知恵」、そして「レマン湖とアルプスが調和したヨーロッパ最高峰の景観美」を持つ遺産です。
これまで学んできた「中国の棚田」「キューバのコーヒー農園」「イランの岩窟集落」にこの「スイスのブドウ畑」を加えれば、世界中のあらゆる過酷な環境を克服した『文化的景観マスター』になれますよ!
