世界遺産で「ヨーロッパの近代都市文化」を学ぶ際、この温泉都市群は「医学、余暇、外交、都市計画が完璧に融合した場所」として、文化史において非常に重要な位置を占めています。
18世紀から20世紀初頭にかけて、ヨーロッパ各地で天然鉱泉(温泉)を中心としたリゾート都市(スパ・タウン)が発展しました。医学的効能を求める湯治(湯治療法)の場としてだけでなく、皇帝や王侯貴族、芸術家たちが集う最高峰の社交場として発展した歴史を今に伝えています。
基礎データ
- 登録年: 2021年(第44回世界遺産委員会)
- 分類: 文化遺産(トランスバウンダリー・サイト / シリアル・プロパティ)
- 登録基準: (ii) 建築、技術、都市計画、景観デザインの価値の交流、(iii) 独自の文化的伝統の存在を証明するもの
- 所在地: ヨーロッパ7カ国(オーストリア、ベルギー、チェコ、フランス、ドイツ、イタリア、イギリス)
ここが凄い3つのポイント
① 7カ国に点在する「11の代表的スパ・タウン」 この遺産は、ヨーロッパ全土に広がる名高い温泉都市の中から、特に保存状態が良く歴史的価値の高い11都市が厳選されて構成されています。
- チェコ(3都市): カロヴィ・ヴァリ、マリアーンスケー・ラーズニェ、フランティシュコヴィ・ラーズニェ
- ドイツ(3都市): バーデン=バーデン、バート・キスィンゲン、バート・エムス
- オーストリア(1都市): バート・バーデン
- ベルギー(1都市): スパ(※英語の「spa」の語源となった地名)
- フランス(1都市): ヴィシー
- イタリア(1都市): モンテカティーニ・テルメ
- イギリス(1都市): バース(※すでに単独で「バース市街」として登録済みのエリアを含む)
② 飲泉所、カジノ、劇場が一体となった「温泉都市の建築美」 日本の温泉街(温泉旅館や湯治場)とは異なり、ヨーロッパの温泉都市は「総合エンターテインメント&ウェルネス都市」として計画されました。 源泉を飲むための豪華な飲泉コロネード(列柱廊)や飲泉ホール(クアハウス)、豪華な温泉浴場施設はもちろんのこと、湯上がりに散策する広大な公園や庭園、夜の社交場であるカジノ、劇場、グランドホテル、競馬場などが源泉を中心に幾何学的・計画的に配置されています。
③ 政治・文化の歴史を動かした「国際的社交場(インターナショナル・サロン)」 19世紀のヨーロッパにおいて、これらの温泉都市は外交官や王侯貴族が集い、裏で政治的交渉や同盟の話し合いが行われる「静かな外交の舞台」でした。 また、ベートーヴェン、ショパン、ゲーテ、ドストエフスキーといった数々の巨匠たちが滞在し、温泉の効能に癒やされながら新たな作品の構想を練った場所でもあります。ヨーロッパ共通の「スパ・カルチャー(温泉文化)」という独特のライフスタイルと社会現象(登録基準iii)を証明しています。
試験・知識のワンポイント:「7カ国にまたがるトランスバウンダリー物件」
世界遺産試験や知識の整理において、この遺産は第25回の「ムスカウ公園(2カ国)」や「ストゥルーヴェの測量アーチ(10カ国)」などと並ぶ、「超国境型(トランスバウンダリー)のシリアルノミネーション」の代表例です。 国境を越えて「ヨーロッパ共通の温泉都市という文化的概念」をひとつの遺産として評価する手法は、現代の世界遺産条約におけるグローバルな協力体制の好例として頻出します。
まとめ
ヨーロッパの大温泉都市群は、「ヨーロッパ7カ国11都市が誇る最高峰の温泉リゾート遺産」、「飲泉ホールやカジノ、公園が調和したエレガントな都市計画」、そして「王侯貴族や芸術家たちが交流した国際的スパ文化の象徴」です。
日本の「湯治文化」と比較しながら、『医学・社交・建築・都市計画が結実したヨーロッパ独自の温泉文化的景観』として理解しておくと、より深みのある視点が身につきます!
