世界遺産の「農業・生産景観」といえば作物や果樹を育てる場所が一般的ですが、この遺産はなんと「王室の儀式で馬車を引く特別な馬を育てるためだけにデザインされた景観」です。
エルベ川(ラベ川)沿いの平原に広がるこの場所は、16世紀にハプスブルク家の皇室牧場として整備されて以来、400年以上にもわたって完璧な美しい景観と馬の血統が守られ続けています。
基礎データ
- 登録年: 2019年(第43回世界遺産委員会)
- 分類: 文化遺産(文化的景観)
- 登録基準: (iv) 歴史上重要な時代を例証する建築物群や景観、(v) 独自の伝統的集落や人類の環境利用の見本
- 所在地: チェコ共和国(パルドゥビツェ州)
ここが凄い3つのポイント
① 世界最古の国家指定牧場が生んだ白馬「クラドルベル」 この景観の主役は、「クラドルバー(クラドルベル)」と呼ばれる最高級の馬種です。 1579年、神聖ローマ皇帝マクシミリアン2世の時代に皇室牧場として正式に作られて以来、ここではハプスブルク家の皇帝や貴族が戴冠式や結婚式などの壮大な式典で乗る「式典馬車(儀装馬車)用の引き馬」が繁殖・訓練されてきました。 特に体高が高く、毛並みが神聖な白や黒で、長時間の儀式でも気品を保って馬車を引っ張ることができるように特別な交配と訓練が重ねられてきました。
② 馬の移動とトレーニングのために設計された「グリッド状の幾何学美」 文化的景観(登録基準iv, v)として評価された最大の理由は、「見渡す限りの風景すべてが馬の飼育とトレーニングに特化してデザインされている」点です。 広大な平原には、直線状に伸びる美しい木立の並木道、整然と区画整理された牧草地、馬の移動をスムーズにするための水路やフェンスが完璧なグリッド状(格子状)に張り巡らされています。 これらは単なる見た目の美しさだけでなく、「馬が怪我をせず、効率よく駆け回れるように」計算し尽くされた機能美でもあります。
③ 新古典主義の古典美あふれる「厩舎群と施設」 敷地内には、白を基調とした洗練された新古典主義様式の美しい厩舎(馬小屋)や、牧場主の館、教会、乗馬馬場などが立ち並んでいます。 まるで宮殿の一部かのような優雅な建築群と、緑豊かな牧草地、そしてそこを優雅に駆け抜ける白いクラドルバーの姿が調和した景色は、16世紀から18世紀のヨーロッパの絶対王政期における「皇室の栄華」をそのままフリーズしたかのようなロマンに満ちています。
試験・知識のワンポイント:「馬」に特化した超レアな世界遺産
世界遺産の試験において、この遺産は「動物の繁殖・訓練に特化した世界でも数少ない文化的景観」として非常に重要視されます。 例えば、オーストラリアの「ブンジ・ニニ文化景観(古代のウナギ養殖)」や、モロッコの「ワディ・ラム(先住民の放牧)」など、人間が特定の動物や魚とどのような環境を作ってきたかという文脈で比較されることがあります。 現在も現役の国営牧場として機能しており、ここで育ったクラドルバーはチェコやデンマークなどの王室の式典で現在も馬車を引いています。
まとめ
クラドルビ・ナド・ラベムの景観は、「ハプスブルク家のために生まれた白馬クラドルバーの故郷」、「馬のトレーニングのためにデザインされた幾何学的な牧草美」、そして「現在も現役で王室の馬を送り出し続ける生きた伝統」を持つ遺産です。
これまで学んできた「食べる・飲むための農業景観」とは一味違う、『ヨーロッパの王室文化と馬が生んだ最高峰のエレガントな文化的景観』としてインプットしておきましょう!
