世界遺産で「植物園」といえば、第1号でもあるイギリスの「キュー王立植物園(キューガーデン)」やイタリアの「パドヴァの植物園」などが有名ですが、熱帯地域における植物園としての登録はこのシンガポール植物園が世界初です。
高層ビルが立ち並ぶ大都会の真ん中に広がる約74ヘクタール(東京ドーム約16個分)もの広大な緑地。ここは単なる市民の憩いの場ではなく、かつて「世界の産業構造を根本から塗り替えた科学研究の最前線」でした。
基礎データ
- 登録年: 2015年(第39回世界遺産委員会)
- 分類: 文化遺産(文化的景観)
- 登録基準: (ii) 建築、技術、都市計画、景観デザインの価値の交流、(iv) 人類の歴史上重要な時代を例証する景観
- 所在地: シンガポール共和国
ここが凄い3つのポイント
① イギリス風風景式庭園と熱帯自然の完璧な融合 1859年、イギリスの植民地時代に農業園芸協会によって設立されたこの植物園は、曲線を活かしたイギリス伝統の「自然主義的な風景式庭園」の意匠を取り入れて設計されました。 幾何学的な西洋庭園とは異なり、自然の地形や小川、丘をそのまま活かした美しい景観デザイン(登録基準ii, iv)のなかに、熱帯雨林の生態系が見事に溶け込んでいます。
② 世界の産業を変えた「ゴム栽培技術」の発祥地 この植物園が世界遺産として高く評価された最大の理由が、初代園長ヘンリー・ニコラス・リドリーらによる「天然ゴム」の研究です。 南米原産のパラゴムノキをここで栽培・改良し、樹皮を傷つけずに効率よくラテックス(樹液)を採取する「連続タッピング法」を開発しました。この技術革新により、マレー半島をはじめとする東南アジア全域でゴムのプランテーション産業が爆発的に拡大。当時、自動車社会を迎えていた世界中にタイヤなどのゴム製品を供給し、地球規模の産業革命を支えました。
③ 外交の舞台にもなる「ラン(蘭)の研究と交配」 天然ゴムに並ぶもう一つの功績が、高度な「蘭(オーキッド)」の交配・繁殖技術の確立です。 園内にある「ナショナル・オーキッド・ガーデン」には、数千種におよぶ原種・交配種のランが咲き誇り、世界最高峰の研究拠点となっています。シンガポールを訪れた各国の首脳や要人の名前を冠した新種のランを贈る「オーキッド外交」の舞台としても知られており、文化・政治的にも大きな役割を果たしています。
試験・知識のワンポイント:都市型世界遺産のモデルケース
世界遺産の試験において、シンガポール植物園は「都市の中に完全に統合された生きている遺産」として出題されます。 多くの世界遺産が入場制限や厳しい規制を設ける中、この植物園(ナショナル・オーキッド・ガーデン等の一部の有料エリアを除く)は「早朝5時から深夜2時まで年中無休・入場無料」で開放されています。160年以上にわたり、研究施設としての価値を守りながら、市民や旅行者の日常生活に寄り添い続けている点が、持続可能な文化的景観の理想形として絶賛されています。
まとめ
シンガポール植物園は、「イギリスの庭園美と熱帯雨林が調和した景観デザイン」、「世界産業を支えた天然ゴムとラン研究の聖地」、そして「大都市の中で市民と共に生き続けるオアシス」です。
これまで学んできた「農園(コーヒーやタバコ)」や「自然の聖地(トンガリロ)」とはまた異なり、『人間の科学研究と情熱が世界の産業史を書き換えた文化的景観』として、その歴史的価値をしっかりと整理しておきましょう!
