オリーヴとワインの土地ーバッティールの丘:南エルサレムの文化的景観:数千年前から流れる水とオリーブの段々畑、脅威と闘う奇跡の景観

世界遺産の中で「文化的景観」を学ぶ際、このバッティールは「持続可能な古代の水利システム」「現代の社会情勢から景観を守る緊急性」が交錯する最高峰のケーススタディです。

エルサレムの南西、ナビ・ユーニスとエルサレムを結ぶ谷間に位置するバッティール村。ここは古代ローマ時代から続くオリーブやブドウ栽培のための段々畑と、見事な伝統的水利システムが今なお現役で機能している奇跡の場所です。

基礎データ

  • 登録年: 2014年(第38回世界遺産委員会)
  • 分類: 文化遺産(文化的景観)
  • 登録基準: (iv) 歴史上重要な時代を例証する景観、(v) 独自の伝統的集落や人類の環境利用の見本
  • 所在地: パレスチナ自治政府

ここが凄い3つのポイント

① 数千年前から続く「空積み(ドライストーン)」の段々畑

バッティールの谷には、急斜面を効率よく農地にするため、モルタルなどの接合剤を一切使わずに石をそのまま積み上げる「空積み(ドライストーン工法)」の技術で作られた見事な段々畑(テラス)が張り巡らされています。

このテラスは単に作物を植える場所というだけでなく、限られた雨水や土砂が斜面から流出するのを防ぐという完璧な環境保全の役割を果たしてきました。主にオリーブの木やブドウ(ワイン用)が植えられ、何世紀にもわたって地域の食と暮らしを支えています。

② ローマ時代から受け継がれる「水分配の伝統システム」

バッティールの真骨頂は、湧き水を各農地に届ける「地下水路と配水システム」です。

山から湧き出る水は貯水池(グラ)に集められ、そこから粘土製のパイプや水路を通って段々畑へと張り巡らされています。

驚くべきは、「どの農家にいつどれだけの水を配給するか」を決めるルールが、数百年以上変わらず村の主要8一族の間で順繰りに回されているという点です。木切れを使って水量を測るなどの伝統的な慣習(登録基準v)が、現代においても完璧に機能しています。

③ 登録と同時に「危機遺産」に指定された理由

この遺産を語る上で絶対に外せないのが、登録の経緯にまつわる緊迫したストーリーです。

バッティール村のすぐ近くには、イスラエルによって建設が進められていた「分離壁(セキュリティ・バリア)」の計画ルートが存在していました。壁が作られれば古代からの段々畑や水路が切断され、農民たちが土地へアクセスできなくなるという深刻な危機に瀕したのです。

そのため、世界遺産委員会は緊急事態と判断し、2014年の世界遺産登録と「全く同じ瞬間」に『危機遺産リスト』にも同時登録しました。世界遺産のパワーを使って開発や破壊を食い止めた象徴的な事例です。

試験・知識のワンポイント:「緊急登録」と「危機遺産リスト」のメカニズム

世界遺産マイスター試験や深い知識を目指す上で、バッティールは「緊急登録手続き(Emergency basis)」の見本として出題されます。

通常、世界遺産の登録には数年間の審査プロセスが必要ですが、遺産が不可逆的な破壊の脅威に晒されている場合、通常の手続きをスキップして即座に審議・登録される仕組みがあります。

バッティールはこの仕組みが適用され、国際社会からの強い保護要請を受けた結果、分離壁の建設ルート見直しをめぐる現地での法的な議論にも大きな影響を与えました。「文化遺産を守ることが人々の暮らしを守る」という世界遺産条約の理念を強く体現している事例です。

まとめ

オリーヴとワインの土地ーバッティールの丘は、「ローマ時代から続く石垣テラスとオリーブ農園」「一族間で大切に守られてきた古代の水分配システム」、そして「絶滅の危機から世界遺産制度によって保護へ踏み出した不屈の景観」です。

これまでに学んだ「ラヴォーのブドウ畑」や「景邁山の古茶林」のような静かな美しさだけでなく、『現代社会の境界線や情勢と闘う生きた文化的景観』として理解しておくと、世界遺産をより広い視野で見つめられるようになります!

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