世界遺産で「独特な自然地形と伝統農業の組み合わせ」を学ぶ際、このビニャーレス渓谷は間違いなくトップクラスの面白さを誇ります。
キューバ西部のピナール・デル・リオ州に位置するこの渓谷は、まるで異世界に迷い込んだかのような緑豊かな盆地です。そこに聳え立つ異様な形の奇岩群と、伝統的な手法で作られる最高級タバコ畑が織りなす景観は、絵画のような美しさです。
基礎データ
- 登録年: 1999年(第23回世界遺産委員会)
- 分類: 文化遺産(文化的景観)
- 登録基準: (iv) 歴史上重要な時代を例証する景観
- 所在地: キューバ共和国(ピナール・デル・リオ州)
ここが凄い3つのポイント
① 丸みを帯びた不気味で美しい奇岩「モゴテ(Mogote)」 ビニャーレス渓谷に足を踏み入れてまず目を奪われるのが、平らな盆地から突如として切り立ち、ポコポコといくつも並んでいる独特な岩山です。これらは現地で「モゴテ(Mogote)」と呼ばれています。 数億年前の石灰岩台地が地下水や雨水によって激しく溶かされ(熱帯カルスト地形)、天井部分が崩落して残った部分が削られてできた奇岩群です。そのお椀を伏せたような特異な形状は、まるで中国のハロン湾や桂林の陸上版のようです。
② 機械を使わない!極上葉巻「ハバナシガー」の伝統農法 モゴテの麓に広がる赤土の畑で育まれているのが、世界最高峰とされるキューバ産葉巻(ハバナシガー)の原料となる最高級のタバコ(葉タバコ)です。 ここでは今でもトラクターなどの機械をほとんど使いません。土を耕すのは「牛が引く木製のすき」であり、収穫や摘葉もすべて農民たちの「手作業」で行われています。重機を使うと土が固くなり、繊細なタバコの根の成長を阻害してしまうためです。この数百年前から変わらない機械化に頼らない農業(登録基準iv)が、今も現役で守られています。
③ 風情あふれる「乾燥小屋(カサ・デ・タバコ)」と集落 収穫されたタバコの葉は、畑の脇に建つ「カサ・デ・タバコ」と呼ばれる専用の乾燥小屋に運ばれます。 ヤシの葉で作られた三角屋根の風通しの良い小屋の中に葉を吊るし、じっくりと時間をかけて自然乾燥させます。赤い土、青々としたタバコの葉、素朴なヤシの屋根の小屋、そして背景にそびえるモゴテ……この要素が完璧に合わさった風景こそ、ビニャーレスが誇る究極の「文化的景観」です。
試験・知識のワンポイント:巨大壁画「ムラリア・デ・ラ・プレヒストリア」
雑学や現地観光のポイントとして有名なのが、渓谷内にあるモゴテの断崖に描かれた超巨大な壁画「ムラリア・デ・ラ・プレヒストリア(先史時代の壁画)」です。 1960年代にメキシコの画家ディエゴ・リベラの弟子(レディオ・マルティネス)によって描かれたもので、縦120メートル、横180メートルという巨大な岩肌に、恐竜やアンモナイト、先住民の姿などが鮮やかな色彩で描かれています。古くからの自然と20世紀のポップなアートが同居している点も、この渓谷の多様な魅力の一つです。
まとめ
ビニャーレス渓谷は、「太古の石灰岩が侵食されてできた奇岩モゴテ」、「牛と手作業で守り続ける最高級タバコの伝統農法」、そして「赤土とヤシの乾燥小屋が描くのどかな田園風景」が融合した唯一無二の遺産です。
第15回でご紹介した「キューバのコーヒー農園」と合わせ、『キューバが世界に誇る2大農産物(コーヒーと葉巻)の文化的景観』としてセットで覚えておくと、知識の幅が一気に広がります!
